明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 12/58

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8明星大学心理学年報2012年第30号であるが,女子学生においては高校時代や大学時代に友人との情緒的サポートの授受が重要であることが明らかになった。また,宮下(1998)は,男子学生90名,女子学生173人を対象に,....

8明星大学心理学年報2012年第30号であるが,女子学生においては高校時代や大学時代に友人との情緒的サポートの授受が重要であることが明らかになった。また,宮下(1998)は,男子学生90名,女子学生173人を対象に,友人関係と自我同一性の関連を調査した結果,男子学生では“真面目である”,“常識がある”,“几帳面である”ような“社会性”を備えた友人関係を持つことが自我同一性の確立にとって重要であることが明らかになった。一方,女子学生は“社会性”に加え,“よく相談に乗ってくれる”,“落ち込んだ時励ましてくれる”,“喜びや悲しみを共有できる”ような“精神的な安らぎ・相互信頼”が得られる友人関係を持つことや,“行動力がある”,“活発である”,“積極的である”といった“社交性”を備えた友人関係を持つことが自我同一性の確立にとって重要であることが明らかになった。福岡・友野・橋本(2000)は,女子大学生120名(平均年齢18.81歳)と既婚中年女性(成人女性)121名(平均年齢41.32歳)を対象に,受領サポートに関する質問項目を8項目設定し,各項目についてあてはまる人物が誰であるかを最高9名まで挙げさせ,それらの人々との関係に満足しているかを調査した。そして,受領サポート源となる人物との関係について,親や兄弟等の血縁者との関係と友人等の非血縁者との関係に分け,それぞれの関係において受領サポートに該当する数と自我同一性の関連を検討した。その結果,まず,女子学生よりも成人女性のほうが自我同一性が確立されていることが明らかになった。そして,成人女性は友人等の非血縁者からサポートを受領できる可能性がある人ほど自我同一性の達成度が高かったが,女子学生は血縁者・非血縁者問わず多くの人からサポートを受領できる可能性がある人ほど,自我同一性の達成度が高いことが明らかになった。これらの先行研究から考えると,大学生の男子学生,女子学生ともに,青年期の友人関係が自我同一性の確立に一定の影響を及ぼしていると言えるだろう。特に女子学生は精神的に支え合うこと(情緒的サポートの授受)のできる友人関係を持つことが,自我同一性の確立に影響することが考えられる。青年期における友人との関係の持ち方には性差があり,そのことが自我同一性の確立に影響を及ぼしているようである。竹澤・小玉(2004)の研究では,男子学生も女子学生も情緒的依存欲求が高いほど他者信頼感が高かったが,それに加えて,女子学生は情緒的依存欲求が高いほど自己信頼感も高いという特徴がみられた。つまり,女子学生においては情緒的依存欲求の高さが,青年期における適応的な発達に作用していることがうかがえる。友人との信頼できる関係を基盤とした自己信頼感が,自我同一性の確立を促進させる可能性も考えられる。ソーシャルサポートの授受が自我同一性の確立にどのようなメカニズムで影響を及ぼしているのかについては,はっきりとした理論的説明はなされていないが,サポートの授受の健康への影響については,2つの考え方が提出されている。1つは,サポートの提供量と受領量の相対的なバランスが取れている場合には,健康が良好に保たれるが,そのバランスが崩れると健康が損なわれるという“衡平理論(周・深田,1996)”である。森本(2006)は,大学生を対象にした研究で,相対的バランスだけではなく,絶対的な量にも注目し,精神的健康が維持されるのはソーシャルサポートの受領と提供がともに多い場合であり,両者のバランスがとれていない場合や受領と提供がともに少ない場合には精神的健康が悪化することを示し,衡平理論を一部修正している。もう1つは,サポートの提供のみが健康に有益な影響をあたえる(Brown, Nesse, Vinokur &Smith,2003)という考え方である。Brown et al.(2003)は65歳以上の高齢者を対象に,道具的サポートと情緒的サポートを他者に提供していることが死亡率を低下させることを明らかにした。また,同じサポートの提供でも,情緒的サポートのほうが道具的サポートよりも死亡率を低下させることも示した。Brown et al.(2003)は,これらの結果に関して,多くの社会心理学的研究において,サポートの提供が肯定的感情に繋がっている(例, Cialdini & Kenrick, 1976)ことから,サポートの提供によって喚起された肯定的感情が健康を増進させる可能性があると示唆している。しかし,Brown et al.(2003)の研究は,高齢者を対象とした研究であるため,この研究結果を日本の青年にそのまま適用することは難しいだろう。また,サポートの授受が自我同一性の確立に,どのような機序を経て影響を及ぼすのかについてはまだ分からないところが多い。これらを踏まえ,本研究では,大学生において,友人とのソーシャルサポートの授受が,自我同一性の確立に及ぼす影響を検討することを目的とする。具体的には,仮説1“サポートの授受がともに多いほど,自我同一性が確立される”,仮説2“サポートの授受が自我同一性に及ぼす影響には性差がある”について検討する。まず仮説1を立てた理由であるが,福岡他(2000),宮下・渡辺(1992)の研究から,サポート授受の量と自我同一性の確立には正の関係があると考えられる。ま