明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 21/58

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明星大学心理学年報2012,No.30,17―22資料生徒中心型指導がピアノ教師の教えがいに及ぼす影響?今井由起子?本研究の目的は,地域におけるピアノ教育の指導上の困難や教授法が,ピアノ教師の教えがいにどのような影響....

明星大学心理学年報2012,No.30,17―22資料生徒中心型指導がピアノ教師の教えがいに及ぼす影響?今井由起子?本研究の目的は,地域におけるピアノ教育の指導上の困難や教授法が,ピアノ教師の教えがいにどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることである。167名に質問紙を配布し,126名の有効回答が得られた。パス解析の結果,“生徒中心型指導”は,“ピアノ教師の教えがい”に直接正の影響を及ぼすと同時に,“生徒の学習意欲の低さ”を介して“ピアノ教師の教えがい”に影響を及ぼしていた。分散分析の結果,生徒中心型指導が行われている場合は,生徒の学習意欲が低くても,ピアノ教師の教えがいは低下しなかった。これらのことから,ピアノ教師が教えがいをもって指導に取り組むためには,生徒一人ひとりの能力や適性に応じた生徒中心型の指導が重要であることが示唆された。キーワード:教えがい,ピアノ教育,生徒中心型指導Mursell(1934美田訳,1967)は,音楽教育は,教育の過程において,非常に大切な人間的なふれあいの理想的な機会を提供することが可能であるという理由から最もやりがいのある仕事であり,音楽の勉強は,先生と生徒という二者が共に,音楽の喜びの源を見出す芸術活動であり,楽しみながら何かを成し遂げ,人間的に成長することであると述べている。また,Cavaye・西山(1987)は,音楽教育においては,演奏技術の習得を目的とするだけでなく,教師と生徒の人間関係を介して育まれる生徒の人格的成長が重視されるべきであると述べている。このように,単に演奏技術の習得だけではなく,教師との人格的なふれあいから人間的成長を目指すという特徴を持つ音楽教育の中で,本研究では,我が国で広く行われているピアノ教育に焦点を当て,個人でピアノ教室を運営しているピアノ教師が指導上抱えている困難や生徒への指導法が,ピアノ教師自身の教えがいとどのように関連しているのかを検討する。我が国において,現在では,ピアノ教師の数は,日本論文に関するご意見・ご質問は,著者のメールアドレスまでお願いいたします。(e-mail:imaiyukiko123@gmail.com)?明星大学人文学研究科?本論文は,日本音楽教育学会第41回大会で口頭発表したものを加筆修正したものである。?本研究は,2007年度に横浜国立大学大学院音楽研究科に提出した修士論文の一部を再分析したものである。修士論文執筆に際し,ご指導頂きました小川昌文先生に深く御礼申し上げます。また本論文執筆に際し,ご指導いただきました明星大学人文学部心理学科教授の岡林秀樹先生に心より厚く御礼申し上げます。さらに本調査にご協力頂いたピアノ教師の皆様に感謝申し上げます。本ピアノ指導者協会(略称ピティナ)で約13000人(全日本ピアノ指導者協会,2011),日本ピアノ教育連盟で約2500人(全日本ピアノ教育連盟, 2011 ;会員数は著者が2011年11月に電話で問い合わせ確認した)であり,非常に多くの人がピアノ教育に携わっている。ピアノ教育が行われている音楽教室を経営しているのは,楽器メーカー,音楽大学,および個人のピアノ教師の3つに区分されるが,我が国で最も広く行われているのは,ピアノ教師が地域で運営している音楽教室である。地域におけるピアノ教育の在り方は,ヨーロッパと我が国とで著しく異なっている。日本においては,義務教育の中に音楽教育が取り込まれてはいるが,その中でピアノ教育は行われていない。それに対して,ヨーロッパでは,義務教育以外の場で音楽教育が広く行われており,そこで多くの子どもたちがピアノに関わる機会が保証されている。ハンガリーでは,学童期からピアノ教育の体系的なカリキュラムが整っており,その役割も専門家の養成に特化したものでなく,広く音楽愛好家の育成に資するという確固たる理念のもと行われている(降矢,2000)。イタリア(草野,1999),フランス(小沢,2008)やドイツ(古賀,1994)でも,全国に音楽の公的機関が存在しており,地域におけるピアノ教育が広く行われている。このように,ヨーロッパでは,国や市などによる公的な機関がピアノ教育において中心的役割を果たしているが,我が国において,ピアノ教師個人が運営しているピアノ教室の指導方針は,個々のピアノ教師に任されている。さらに,ピアノ教育の現場が基本的には教師―生徒のマンツーマン指導であり,その中で問題が生じた場合,他者から適切なアドバイスを得ること