明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 22/58

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18明星大学心理学年報2012年第30号は難しい。このようにピアノ教育の現場が,周囲から隔離された閉鎖環境であることは,問題を抱えたピアノ教師が解決策を見いだせぬまま孤立してしまったり,あるいは自らの指導の独....

18明星大学心理学年報2012年第30号は難しい。このようにピアノ教育の現場が,周囲から隔離された閉鎖環境であることは,問題を抱えたピアノ教師が解決策を見いだせぬまま孤立してしまったり,あるいは自らの指導の独善性を修正できず,生徒との関係を壊してしまうような危険性もはらんでいる。このような袋小路に陥らずに,ピアノ教師が教えがいを保ちつつ,指導に取り組むためには何が必要なのであろうか。我が国においては,ピアノ教師の教えがいを取り扱った研究はほとんどないが,学校教育における教師の教えがいを扱った研究はいくつか見いだされる。藤田・油布・酒井・秋葉(1995)は,小中学校の教師の役割遂行に対する動機づけを日本とイギリスの制度の違いを踏まえて検討しており,イギリスにおいては,教師に任されたカリキュラム編成権が教師の職業人としての自信を高めるのに対して,日本では,カリキュラムの編成に関しては,国家の統制が強く教師の裁量が制約されているため,教師の職務への動機づけは,授業以外の活動の場で得られる生徒との(教科内容を超えた)個人的な人間関係によって高められると考察している。小島(2002)は,高校教師のやりがいや職業満足感についての意識調査の結果,教師のやりがい感は,基礎的な学力不足,授業への関心の低さ,自分勝手な態度,教師への反抗といった生徒の特性によって低下することを明らかにしている。これらの研究から,教師の教えがいは,教科内容そのものに対する生徒の学力や参加意欲に加えて,生徒と教師との個人的な人間関係によって高められる可能性が示唆されている。目的本研究の目的は,我が国で広く行われている専門家の育成を目指していないピアノ教師に対する調査を通して,ピアノ教師が指導上抱えている困難と生徒への指導法が,ピアノ教師自身の教えがいとどのように関連しているのかを明らかにすることである。具体的には,以下の2つの仮説を検討する。仮説1.ピアノ教師が“生徒一人ひとりにふさわしい指導を心掛けている”という生徒中心型の指導を行っているほど,ピアノ教師が指導上抱える困難が減少し,結果として“ピアノ教師の教えがい”が維持されるのではないか。仮説2.ピアノ教師が指導上困難を抱えていたとしても,ピアノ教師が“生徒一人ひとりにふさわしい指導を心掛けている”場合は,そうでない場合よりも,生徒との人間関係がよくなるため,“ピアノ教師の教えがい”も維持されるのではないか。方法調査対象者2007年7月1日から8月31日にかけて,郵送と直接の手渡しによって,専門家の育成を目指さず,自宅などでピアノを教えているピアノ教師167名に質問紙を配布し,無記名での回答と郵送での返信を依頼した。調査の結果,133票が回収されたが,欠損値のあった4票と他の世代に比?して極端に数が少なかった60歳代2票と70歳代1票は除外し,126票を本研究の分析対象とした(有効回収率75.4%)。質問紙の構成“ピアノ教師の教えがい”は,“ピアノ教師はとてもやりがいのある職業である”と“ピアノを教えることは楽しい”の2項目から構成されると仮定し,その合計得点を項目数で除した平均値を尺度得点とした。“生徒中心型指導”は,“生徒一人ひとりにふさわしい指導を心がけている”程度を1項目で測定した。“ピアノ指導の難しさ”については,“指導方法”,“教材の選び方”,“保護者との関わり方”,“生徒が練習しない”,“生徒が集中しない”という5項目について,ピアノ教師が困ったり悩んだりしている程度を質問した。上記すべての項目について,“強くそう思う”,“少しそう思う”,“どちらともいえない”,“あまりそう思わない”,“全くそう思わない”の5件法で測定し,順に5点から1点を配点した。分析手続き本研究で用いた変数の平均値と標準偏差をAppendixIに示した。尺度の検討“ピアノ教師の教えがい”尺度(2項目)におけるクロンバックのα係数は.690であり,ある程度の内部一貫性が示された。“ピアノ指導の難しさ”の5項目の因子構造を検討するために,固有値1を基準に主因子法により因子分析を行ったところ,因子がうまく収束しなかったため,主成分分析によって,再度因子の抽出を試みた。バリマックス回転を施したところ,2因子によってその分散の71.39%を説明できた(Table 1)。第1因子は“ピアノ教師の教材の選び方”,“ピアノ教師の指導方法”,および“ピアノ教師の保護者との関わり方”の3項目からなる“ピアノ教師の教授法の悩み”と命名し,第2因子は“生徒が集中しない”,“生徒が練習しない”の2項目からなる“生徒の学習意欲の低さ”と命名した。内部一貫性を示すクロンバックのα係数を因子ごとに抽出したところ,