明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 24/58

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20明星大学心理学年報2012年第30号る教授法の悩みは少なくなっていることが明らかとなった。“生徒の学習意欲の低さ”が“ピアノ教師の教えがい”に及ぼす影響に対する“生徒中心型指導”の緩衝効果“ピアノ教師の教....

20明星大学心理学年報2012年第30号る教授法の悩みは少なくなっていることが明らかとなった。“生徒の学習意欲の低さ”が“ピアノ教師の教えがい”に及ぼす影響に対する“生徒中心型指導”の緩衝効果“ピアノ教師の教えがい”を従属変数,“生徒中心型指導(強・弱)”,“生徒の学習意欲の低さ(弱・中・強)”を独立変数とした2要因の分散分析を行った結果(各群における平均値と標準偏差はAppendix IIIに示した),主効果に関しては“生徒中心型指導”に5%水準で有意な効果(F(1,120)=5.23,p<.05)がみられ,“生徒の学習意欲の低さ”には10%水準での有意な傾向(F(2,120)=2.75,p<.10)がみられた。さらに,“生徒の学習意欲の低さ”と“生徒中心型指導”の交互作用にも有意な傾向がみられた(F(2,120)=3.03,p<.10)ため,交互作用の内容を明示するためにFigure2を示した。Figure2より,生徒中心型の指導を充分行えていない場合は,生徒の学習意欲が低いとピアノ教師の教えがいは低下するが,生徒中心型の指導を充分行えている場合には,生徒の学習意欲が低くても,ピアノ教師の教えがいは低下せず,維持されていることが明らかとなった。考察ピアノ教師が指導上抱えている困難と生徒への指導法が,ピアノ教師の教えがいとどのように関連しているのかをパス解析と分散分析を通して検討した。パス解析の結果,ピアノ教師の教えがいは,生徒のピアノ学習意欲が高いほど高くなり,生徒のピアノ学習意欲を高めるためには,“生徒一人ひとりにふさわしい指導を心掛ける”という生徒中心型の指導を行うことが重要である,ということが明らかになり,仮説1は支持されたといえるだろう。ピアノ教師の教授上の悩みに関しては,ピアノ教師の教えがいに影響を及ぼしておらず,教授法や保護者との関係に多少の困難があっても,そのこと自体が,ピアノ教師の教えがいを低下させるものではないことが明らかになった。また,そのような問題は,年齢を重ね経験を積むとともに低下することも示された。分散分析の結果,生徒のピアノ学習意欲が低くても,生徒中心型の指導を行うことにより,ピアノ教師の教えがいは低下しないことが明らかとなり,仮説2は支持されたといえるだろう。これらのことから,ピアノ教師が教えがいをもって指導に取り組むためには,生徒一人ひとりの資質や能力に応じた指導の重要性が示唆されたといえる。ピアノ教師が生徒との良好な信頼関係を築き,生徒中心型の指導を丁寧に行うことによって,生徒の学習意欲も高まり,ピアノ教師の教えがいにもつながっていく。このような好循環によって,ピアノ教育が生徒にとっても,教師にとっても,単なる演奏技能の習得を超えた価値を提供できるものになっていくことが期待されるだろう。ピアノ教育は,基本的にマンツーマンの個別指導で行われるため,一人ひとりに向き合う生徒中心型指導の実施は容易なように考えられがちである。しかし,生徒一人ひとりの能力や適性に注意を払い,興味に寄り添い,練習環境も考慮した上で,その生徒に見合った適切な教本の選択を行う必要性があることなど,課題は多い。また,指導が周囲から隔離された閉鎖環境で行われることから,教師と生徒との関係が悪化してしまった場合,周囲からのアドバイスやサポートが受けにくいというような負の側面も持つ。音楽教育が,Mursell(1934)が述べていたように,単Figure 2“生徒の学習意欲の低さ”が“ピアノ教師の教えがい”に及ぼす影響に対する“生徒中心型指導”の緩衝効果(N=126)