明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 29/58

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柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション25Figure 1前頭前野機能に関する領域特異的アプローチ(Stuss,2009).より上方の領域との関連が示唆されているが,とりわけ,右内側前頭前野とのかかわりが強いようであ....

柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション25Figure 1前頭前野機能に関する領域特異的アプローチ(Stuss,2009).より上方の領域との関連が示唆されているが,とりわけ,右内側前頭前野とのかかわりが強いようである(Stuss,et al.2005)。4)メタ認知過程(meta-cognitiveprocess):自己の内的状況の理解(自己意識,想起意識,認知と情動の統合)と,それを基盤として生じる他者認知(心の理論)や社会的認知を担う。この機能に障害をもつ患者は,社会的判断を適切におこなうことができず,さらには,共感性の欠如,無関心,自己投影を必要とするユーモアの無理解,といった症状を示す。前頭極(ブロードマンの10野)との関係が想定されている。Stussによれば,これらの4つの認知機能群は,機能的に互いに独立した関係にあり,たとえば,腹内側前頭前野の限局病巣では,行動的―情動的自己調整機能の障害が観察されるのに対し,背外側前頭前野や前頭極といった前頭前野のそのほかの領域と関連した認知機能の障害は認められないといったケースもありうる。また,Stuss(2007, 2009)の理論においては,いわゆる「遂行機能」に相当する遂行的認知機能は,あくまで前頭葉機能の下位機能の一つにすぎず,しかも,その機能の適用範囲は従来の「遂行機能」と比べてかなり限定的と言ってよい点も特徴的である。臨床場面で患者が示す神経心理学的症状を的確に評価・診断するためには,個々の高次脳機能障害の操作的定義と明確な分類が不可欠である。こうした意味において,前頭葉機能を対応する解剖学的部位の違いから細分化し,各下位機能やそれらの機能障害の明確な定義を試みたStussの理論は,複雑な様相を呈する前頭葉機能障害をより的確に理解するために,有益な枠組みを提供するものと考えられる。2.前頭葉機能障害の認知リハビリテーション前頭前野の損傷は,脳血管障害を原因とした場合だけでなく,若年層に多い交通外傷などの頭部外傷例にも頻繁に認められる。そのため,患者の社会復帰の問題はより深刻で,その大きな阻害因となる前頭葉機能障害に対しては何らかの治療的介入が求められる。近年の認知リハビリテーション(cognitiverehabilitation,以下認知リハ)に対する関心の高まりとともに,従来から訓練対象とされてきた言語障害や記憶障害だけでなく,検査場面ではなかなか捉えにくい前頭葉機能障害についても,その改善をねらいとした認知リハ的な介入が徐々に試みられるようになった。本章では,先に述べたStuss(2007,2009)の前頭葉機能に関する領域特異的アプローチの枠組みに従いながら,これまで実施された前頭葉機能障害の認知リハについて整理及び概観したい。2-1.遂行的認知機能Stussの4つの前頭前野機能のうち,認知リハの対象としてもっとも多く取り上げられているのが,プランニング,認知的構えの転換,抑制などの遂行的認知機能である。この領域の認知リハでは,遂行的認知機能の各認知機能を総動員して解決することが求められる問題解決場面での遂行の改善をめざした介入と,遂行的認知機能の特定の1つの認知機能の改善に対象を絞った介入の2つに大別される。問題解決訓練von Cramon,Matthes-von Cramon,& Mai(1991)は,問題解決に至る認知過程を,1)問題への気づき,2)問題の定義づけ,3)代案の生成,4)意思決定,