明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 30/58

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26明星大学心理学年報2012年第30号5)解決策の妥当性の吟味,の5つの下位過程に分割し,個々の下位過程における課題に段階的に取り組んでいくことによって,問題解決の達成をめざす系統的な問題解決訓練法を考案し....

26明星大学心理学年報2012年第30号5)解決策の妥当性の吟味,の5つの下位過程に分割し,個々の下位過程における課題に段階的に取り組んでいくことによって,問題解決の達成をめざす系統的な問題解決訓練法を考案した。そして,問題解決に困難を示す脳損傷者を2群に分け,一方の患者群には前述の問題解決方略,残りの患者群には視覚イメージ法などの記憶方略の使用を促進させる訓練を6週間に渡ってそれぞれ実施したところ,問題解決訓練を受けた患者群では,ハノイの塔課題などの神経心理学的な問題解決課題や日常場面での問題解決行動に関する評価尺度,さらには,知能検査のいくつかの下位項目において目立った改善が確認されたのに対し,記憶訓練を受けた患者群では,これらの測度においてわずかな訓練効果を認めるか,訓練効果が認められなかった。続いて,von Cramonらは,前頭葉症状のために職を転々としていた医師の症例に同じ手法で問題解決訓練を施し,病名の診断や医学的な報告書の作成といった職業的な問題解決場面での遂行の改善を導いた。この患者は,1年間の集中的な問題解決訓練の後に,援助つき雇用(supported employment)の職を得ることに成功している(von Cramon & Matthes-von Cramon,1994)。また,Rath,Simon,Langenbahn,Sherr& Diller(2003)は,頭部外傷者の問題解決障害の治療に焦点を当てた訓練プログラムにvon Cramon,et al.(1991)と同様の系統的な問題解決訓練を導入し,WSCTや保続反応得点,自己評価による問題解決測度などにおいて訓練後の改善を認めた。ただ,Rath,et al.(2003)の訓練プログラムでは,問題解決技能の獲得に先立って,衝動性や過剰な情動反応を抑制するための自己調整訓練が実施されており,患者の問題解決場面での遂行の改善には,問題解決を阻害するこうした要因の軽減も大きく影響していると考えられる。問題解決障害に対するこのほかのアプローチとしては,文章の符号化や問題構造の理解を促す手がかりを呈示することにより算術的操作を求める言語的な問題解決課題の遂行を改善させたFasotti, Bremer, &Eling(1992)及びDelazer,Bodner,& Benke(1998),問題解決者のモデルを担う治療者との相互作用的な活動を通して患者の問題解決技能の促進をはかったMarshall,et al.(2004),手がかりの呈示,言語的フィードバック,モデリング,金銭による強化子といったさまざまな手法を用いて小集団による問題解決訓練をおこなったFoxx, Martella, & Marchand-Martella(1989),そして,標準的な神経心理学的検査では障害の検出が難しい前頭葉損傷者に対し,産業界で使用されている教育システムを利用して,患者の問題解決障害の評価と訓練を実施したSatish, Streufert, & Eslinger(2008)などがある。一方,穴水・加藤・斎藤・鹿島(2005)は,右前頭葉損傷者に対してTinkerToyテストとハノイの塔課題を用いた直接刺激法に基づく問題解決訓練をおこなった結果,訓練で使用した2つの問題解決課題のみでなく,BADSの行為計画や動物園地図,また,WAIS-Rの絵画配列や積み木模様においても訓練効果を認めた。特定の遂行的認知機能に対する訓練目標管理目的指向的行動を効果的に遂行するためには,自身が達成すべき目標やそれに向けての下位目標を適切に設定したり,維持したりすることが不可欠となる。Levine,et al.(2000)は,脳損傷者に認められる組織化されていない行動には,目標管理の障害(目標失認,Duncan,1986)が関与していると考え,これを改善するために,15名の頭部外傷者に対してRobertson(1996)の目標管理訓練(goal management training,GMT)を導入した。GMTは,1)中止(STOP?):課題への方向づけと気づきの過程,2)主課題の定義:目標設定の過程,3)段階のリスト化:目標を下位目標に分割する過程,4)段階の学習:下位目標の符号化と維持の過程,5)確認:モニタリングの過程,の5つの過程からなる(Figure2)。GMTの下位過程のいくつかは,von Cramon,et al.(1991)の問題解決訓練の下位過程と重複するが,GMTではいかに問題を解決するかということではなく,目標や下位目標の設定やそれらの維持に重点がおかれる点が特徴的である。Levine,et al.(2000)によれば,GMTを受けた患者群(GMT群)は,GMT群と同じ時間,運動技能訓練を受けた統制群と対照的に,目標失認を評価するための各課題において誤反応数が減少し,遂行時間が増加した。GMT群における訓練後の課題遂行の遅延は,患者の課題に対する注意や気づきの増加を示唆していると考えられる。続いて,Levineらは,脳卒中や脳炎など頭部外傷以外の原因で脳損傷を受傷した患者や健常高齢者に対してもGMTによる前頭葉機能訓練を実施し,有意な訓練効果を確認した(Levin,et al.2000,2007,2011,Schweizer,etal. 2008)。さらに,GMTは,Miotto, et al.(2009)やSpikman, Boelen, Lamberts, Brouwer, & Fassotti(2010)においても,先のvon Cramon, et al.(1991)の問題解決訓練とあわせて導入されており,vonCramonらの問題解決訓練と並んで,GMTはこの領域の認知リハのなかでもっとも代表的な介入法の1つといえる。