明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 31/58

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柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション27Figure 2 GMTにおけるフローチャート.Levine,etal.(2000)をもとに改変他方,Webb& Glueckauf(1994)は,目標の設定や維持を促進させる認知リハ的な介入の効果を,....

柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション27Figure 2 GMTにおけるフローチャート.Levine,etal.(2000)をもとに改変他方,Webb& Glueckauf(1994)は,目標の設定や維持を促進させる認知リハ的な介入の効果を,個人の目標達成の状態を直接的に測定する評価測度(goalattainment scaling,GAS,Kiresuk & Sherman,1968)を用いて検討した。研究に参加した16名の頭部外傷者のうち8名の高訓練群に対しては,目標の優先順位を設定したり,ワークシートと日記を使って目標をモニタリングしたりする訓練を8週間に渡って実施し,残りの8名の低訓練群に対しては高訓練群に用いた前述の手法を導入せずに,治療者による目標設定と維持の訓練を高訓練群と同じ期間おこなった。その結果,高訓練群と低訓練群の両方において,訓練終了直後のGASの得点に改善が認められたが,高訓練群については,低訓練群と違って,訓練終了から2ヵ月後のGASにおいても訓練効果が維持された。目標の維持に,それを促す外的手がかりの使用が効果的に働く場合もある。Manly, Hawkins,Evans,Woldt, & Robertson(2002)は,複数の下位課題から構成される複雑な課題を遂行している脳損傷者に,非周期的に呈示される聴覚アラートを進行中の作業内容の確認と,セッションを通しての全体的な目標の振り返りに利用するよう教示した。Manly,et al.(2002)によると,聴覚アラートが呈示されない条件では,患者群の遂行成績が健常群より有意に低かったのに対し,聴覚アラートが呈示された条件では,健常群と同等のレベルまで患者群の遂行が改善した。プランニング旅行の計画を練ったり,新しい家具を購入したりといった日々の問題を解決するためにプランニングをおこなう際には,過去に体験した似た場面でどう行動したかということについての自伝的なエピソード記憶が重要な手がかりとなる。前頭葉損傷者は自伝的記憶の想起に障害があることが知られており(Baddeley& Wilson,1986),患者が日常生活場面で示すプランニング障害には,プランニングの手がかりとなる特定の自伝的記憶を使用することの失敗がかかわっている可能性がある。この点に着目し,Hewitt,Evans,& Dritschel(2006)は,10名の頭部外傷者を対象に,日々の問題解決場面で,それと類似した状況での自身の活動に関する自伝的記憶を手がかりとしてプランニングすることを促す30分間の訓練を実施した。その結果,こうした短時間のプランニング訓練をおこなった患者群では,統制群の患者とは対照的に,プランの有効性やプランにおける段階の数,また,特定の自伝的記憶を使用した数において有意な訓練効果が認められた。Levinson(1997)は,脳損傷者のプランニング障害を補償するために,NASAの人工知能技術を利用した外的なプランニング補助装置PEAT(The Planning andExecution Assistant and Trainer)を開発した。PEATは携帯情報端末(PDA)上で動作し,朝の身支度や料理などの日常的な問題解決場面で患者がおこなうべき動作の手順を自動生成したり,個々の手順の実行や実行状況のモニタリングを視覚的あるいは聴覚的手がかりによって促進させたりする(Figure3)。必要に応じて手順を修正することも可能である。最近は,スマートフォン上で動作するPEATの開発が進められており,テレビや新聞など各種メディアにおいて話題となっている。PEATの臨床効果については,現在,エビデンスが蓄積されているところであるが,PEATは,先端技術を利用したプランニング障害に対する新しいアプローチとして期待できる(PEATの詳細については, http://www.brainaid.com/を参照のこと)。構えの転換・認知的柔軟性このカテゴリーの認知