明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 33/58

電子ブックを開く

このページは 明星大学心理学年報 第30号 の電子ブックに掲載されている33ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション29ライン期や薬物療法のみを実施した時期と比?して有意に減少した。さらに,続いて実施されたグループセッションにおいても,自身の叫び声に長時間さらすことや叫び声....

柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション29ライン期や薬物療法のみを実施した時期と比?して有意に減少した。さらに,続いて実施されたグループセッションにおいても,自身の叫び声に長時間さらすことや叫び声をあげることの積極的な促しが,患者の症状の軽減に長期的な効果を与えることが確認された。患者は,この治療を受けた後に,院内のリハビリ活動に参加することができるようになり,身体的及び機能的な利益を得たとのことである。一方,Aldermanらは,前頭葉機能障害のために繰り返しの発話を頻回に呈した脳炎患者に対して,レスポンスコストと認知的過剰学習による治療をおこなった(Alderman & Ward,1991)。この研究では,訓練セッションの冒頭に患者に金銭(50ペンス)が渡され,患者が繰り返しの発話をおこなう度に,治療者に1ペンスを与え,それと同時に「私は繰り返してはいけない」と1分間繰り返し述べるよう教示される。15分間の訓練セッションの終了時に46ペンス以上が残っていたら,患者は好物のチョコレートと交換できる。このような訓練を30セッション実施した後,患者の問題行動の生起頻度は,ベースライン期や過剰学習を加えずにレスポンスコストのみの訓練を施した訓練期と比?して,有意に減少した。ただ,Alderman& Burgess(1994)やAlderman, Fry & Youngson(1995)によれば,レスポンスコストだけを単独に使用した訓練も,前頭葉機能障害に伴う行動障害の治療に有効と考えられる。実際,前述のAlderman& Ward(1991)では,レスポンスコストのみを単独に用いた訓練によっても,認知的過剰学習をあわせた場合ほどではないが,ベースライン期と比べて患者の問題行動が改善した。問題行動の発生頻度が非常に高い場合は,低頻度分化強化(differential reinforcement oflowrates ofresponding,DRL)が効果的である(Alderman & Knight,1997;Watson,Rutterford, Shortland, Williamson, & Alderman, 2001)。Alderman& Knight(1997)はDRLによる介入が行動障害の治療に有効であった3例の脳損傷者について記述しており,このうち,症例1は交通事故による頭部外傷の後,物を投げたり叫んだり,あるいは,異性に対して性的なコメントや悪口を言ったりという種々の問題行動を示すようになった。これに対して,Aldermanらは,問題行動の生起頻度が目標値より少なければ強化子を与えながら,患者の問題行動の生起頻度の減少に伴って目標値を徐々に減らしていくDRLによる介入を試みたところ,標的となった4つの問題行動(物を投げる,叫ぶ,性的コメントをする,悪口を言う)のすべての生起頻度がベースライン期より有意に減少した。Alderman & Knight(1997)によると,この効果は,訓練後18ヶ月の時点においても維持された。患者の示す行動障害のなかには,行動障害をあらわす度に治療者や介護者の注意が得られることが強化の役割を果たしているものもある。このような場合は,患者が問題行動を示してもそれに対する強化子となりえる状況を取り除くtime-out-on-the-spot(TOOTS)による介入が効果的と考えられる。Alderman(2003)は,他者の会話を妨げるという問題行動を呈した頭部外傷例において,患者が問題行動を起こしても,それに対して治療者が注意を払わないといった単純な介入方法が問題行動の減少に非常に有効であったと述べている。また,Manchester,Hodgkinson,& Casey(1997)は,攻撃行動や叫びといった問題行動を示した前頭葉損傷者に対し,消去や分化強化,トークンエコノミーなどの行動療法的手法にあわせて,患者が叫びだしたら別の場所に連れて行き,しばらく一人にしておくTOOTSを加えた認知リハを実施し,患者の行動障害の改善を導いた。一方,患者によってはTOOTSによる介入があまり効果的でない場合も報告されており(たとえば, Alderman, et al. 1995),その適用にあたっては,問題行動の発現機序に関する詳細な分析が不可欠となる。情動の制御Medd & Tate(2000)は,頭部外傷者の怒りの制御を目的として,認知行動療法的な手法に基づくグループ研究をおこなった。Medd & Tate(2000)の介入は,1)心理教育:脳損傷の原理や脳損傷に由来する怒りの制御障害の生起メカニズムを学ぶ,2)怒りへの気づき:怒りが最初に生じたときに起こる認知的,身体的,感情的変化を知ることによって,自身の怒りへの気づきを増加させる,3)怒りを処理するための方略の訓練:リラクゼーションや気をそらすといった怒りを低減させるための方略を患者に指導し,訓練させる,の3つの段階からなる。Meddらは,怒りの制御に問題のある8名の患者に,このような治療プログラムを6週間から8週間に渡って実施したところ,治療群の患者では,自身の怒りのモニタリングを同じ期間おこなった統制群の患者と比べて,怒りの評価測度における有意な改善が認められた。この効果は,治療の2ヵ月後におこなわれたフォローアップ期においても持続したが,自尊感情や不安,うつ,自己への気づきの程度を調べる各測度においては,訓練効果の般化が認められなかった。