明星大学心理学年報 第30号

明星大学心理学年報 第30号 page 37/58

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柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション33せる自己モニタリング訓練を試みた。その結果,自身の問題行動に対する患者の自己モニタリングの精度は訓練に伴って改善し,また,自己モニタリング訓練に加えてDRL....

柴崎:前頭葉機能障害の認知リハビリテーション33せる自己モニタリング訓練を試みた。その結果,自身の問題行動に対する患者の自己モニタリングの精度は訓練に伴って改善し,また,自己モニタリング訓練に加えてDRLによる介入が導入された後は,問題行動の生起頻度も減少した。さらに,自己モニタリング訓練による患者の行動障害の改善は,訓練を終了してから5ヶ月が経過した後も,同じ病院内で実施されている別の治療場面において観察された。Aldermanet al.(1995)は,自己モニタリング訓練による訓練効果は比?的ゆっくりとあらわれるものの,TOOTSやレスポンスコストといった行動療法的手法と違って,他の環境への訓練効果の般化が起こりやすいと述べている。一方,Dayus & van den Broek(2000)は,くも膜下出血後に長期に渡って作話を呈した患者に対しても自己モニタリング訓練による治療的介入が効果的であることを報告した。この研究においても,患者の日常生活場面に訓練効果の般化が生じている。Ownsworth,Fleming,Desbois,Strong,& Kuipers(2006)は,自己意識に障害のある頭部外傷者を対象に,患者の誤反応への気づきと誤反応の自己修正の改善をねらいとしたメタ認知訓練を実施した。Ownsworth,etal.(2006)では訓練課題として調理課題が使用されており,介入期では,まず,患者の母親が調理をし,患者がベースライン期で犯したのと同じタイプの失敗をおこなうのを患者に観察させる役割交換法(role-reversal technique)が用いられる。患者は母親が誤りを犯したら,母親を止めて,彼女の誤りを説明し,正しい行動に修正するよう求められる。続いての治療セッションでは,ベースライン期で患者自身が調理をおこなっている場面をビデオで観察し,ビデオの中で患者が誤りを犯したら,前の治療セッションと同様に,誤りを同定し,修正するよう求められた。これらにあわせて,タイマーを用いて3分おきにレシピを確認させたり,調理後に患者の調理行動についてフィードバックする時間を設けたりといった介入を8週間に渡って実施したところ,介入期には患者の調理課題における誤反応の生起頻度が減少し,誤反応の自己修正の頻度が増加した。調理行動におけるこのような訓練効果は,介入を終えた4週間後も維持され,さらに,患者のメタ認知を促す同様の介入が,調理行動だけでなく,ボランティア活動の改善を標的とした別の認知リハにおいても効果的であることが示された。Ownsworth,Quinn,Fleming,Kendall,&Shum(2010)によると,メタ認知訓練は反復訓練よりも誤反応への気づきや誤反応の自己修正の改善に有効である。他方,先のOwnsworth, et al.(2006)では,メタ認知訓練により患者の誤反応への気づきが増加した後でも,自身の障害全般に対する患者の気づきについては大きな変化が認められなかった。したがって,特定の課題条件下での誤反応への気づきが認知リハ的な介入によって促進されても,そのことが患者の抱える障害全般に対する気づきへと発展していくのは難しいように思われる。社会的認知Cicerone& Tanenbaum(1997)は,交通事故に伴う前頭眼窩野損傷の後に,他者の発話をさえぎったり,自分の要求がすぐに満たされないと文句を言ったりといった社会的行動障害をきたすようになった症例に対して,患者の障害への気づきと自身の問題行動の社会的影響の理解を促進させることを目的とした認知リハを実施した。この患者の主要な問題は他者と相互作用をおこなっているときに生じる繊細な社会的情報をコミュニケーションに利用できない点にあり,このことが患者が社会的判断を誤る大きな原因となっていた。Cicerone& Tanenbaum(1997)は,患者の行動に対する患者自身の自己評価と客観的評価の不一致の理解や自身の行動に対しての自己モニタリングを促すために,患者が他者とかかわっている場面を撮影したビデオ映像をフィードバックとして与える介入を実施したところ,訓練された環境においては,患者は自身の行動の不適切さを認識できるようになり,これに伴い問題行動の速やかな修正がおこなわれた。しかし,訓練場面と異なる新しい環境では,患者の社会的行動障害は依然として残ったままであった。最近,Bornhofenらの研究グループは,頭部外傷者の他者の感情状態に対する知覚障害の改善を標的とした治療的介入を試みている。Bornhofen& McDonald(2008a, b)は,社会的問題を抱える頭部外傷者を対象に,患者に誤反応をさせずに適切な行動を学習させる誤りなし学習(Wilson,Baddeley,Evans,& Shiel,1994)や,問題解決過程のモニタリングを促す自己モニタリング方略を導入した全部で25時間の感情知覚訓練をおこなった。その結果,治療群の頭部外傷者では,訓練後に,写真やビデオで呈示される人物の感情状態の判断が求められる評価課題の成績が有意に改善することが示された。Bornhofen & McDonald(2008b)によれば,誤りなし学習と比べて自己モニタリング方略を用いた場合がより効果的とのことである。続いて,McDonald, Bornhofen, & Hunt(2009)は,特定の情動状態があらわれやすい顔の特徴(目と口)に注意を向