心理学年報31号 page 15/54

心理学年報31号

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加納・石井:風景構成法の客観的解釈に関する検討11考察1.相関がみられたLMTCLチェック項目とCS変数とについて1-1遠近感・立体感についてLMTCLチェック項目の遠近感・立体感では,媒介クラスターのS-(r=-.598),P(r=.500),X+%(r=.437),XA%(r=.400)とに,それぞれ正負の相関がみられた(Table 1-1)。S-の高さは怒りや恨みなどの負の感情によって現実検討能力の低下に繋がりやすいことを示している(高橋ら,2007)。また,X+%は現実をどれだけ正しく認知しているかを反映する変数であり,XA%は慣習的な行動がとれるかを表わしている(吉村,2008)。同様に平凡反応であるPは,慣習的・常識的な思考様式を表わす変数である(岸川・南里・西田・正木・上田・福居,2003)。したがって,遠近感・立体感は,感情体験を適切に調整できているか,または社会的要求に基づいた思考や現実検討能力がどれほど保たれているかを反映している可能性がある。1-2着色について着色では,媒介クラスターのS-(r=-.647),思考クラスターのM-(r=-.450)とに負の相関がみられた(Table1-1)。怒りによる衝動性を示唆するS-,そして,自己欲求に従う傾向が高すぎるために対人関係に失敗しやすいM-は,共に認知の歪みを示す変数である(高橋・高橋・西尾, 2007)。また,着色は自己知覚クラスターの3r+(2)/R(r=.442)や対人知覚クラスターのGHR(r=.423)とに正の相関がみられている(Table1)。3r+(2)/Rは自己への関心の程度を示しており,GHRは他者への現実的な関心と肯定的な興味を持ち,置かれた場面に応じて適切な対人行動がとれるかを示す変数である(Exner,2000中村・野田監訳2002)。LMTにおいて着色を行うことにより,肯定的な感情体験を促し,絵が下手だという描画能力に対する低い自己評価を高めることができる(運上・橘・長谷川・中村,2010)。本結果からも着色は自己への関心に繋がるとともに,良好な対人知覚も反映しており,自己ならびに他者に対する関心の程度と関連すると考えられる。1-3自然な着色について自然な着色では,S-(r=-.693),M-(r=-.603),3r+(2)/R(r=.469),XA%(r=.480)とにそれぞれ正負の相関がみられた(Table 1-1)。ところで,LMTの着色には,肯定的側面以外に生の感情が引き出されてしまう危険性がある(運上他,2010)。それは粗雑な色塗りや,妄想型統合失調症患者に特有なヘテロクマティズム(Heterochromatism)という現実には相応しくない不自然で奇妙な色の選択などといった彩色である(高江洲・大森,1984)。このような表現がみられた場合,描き手は否定的感情に翻弄されている状態であり,生の感情統制が出来ずにいることが多い(運上他,2010)。本研究から,LMTCLにおける自然な着色は,描き手の認知的側面を反映し,特に怒りや恨みなどの否定的感情の統制や,対人認知を反映する項目であることが考えられる。したがって,XA%はより状況に即した行動をとれるかといった現実検討能力を反映している(Exner,2000中村・野田監訳2002)ように,自然な着色の失敗は適切な判断力を失っている状況を示す可能性がある。1-4多色について多色では,S-(r=-.494),P(r=.545),3r+(2)/R(r=.504)に加え感情クラスターのBlendsR(r=.518)と対人知覚クラスターのAG(r=-.535)とにそれぞれ正負の相関がみられた(Table 1)。BlendsRは「心理的複雑さ(適度であれば成熟性)」の程度を示しており,刺激に対して適切な注意を向け,思考と感情をともに働けるかどうかを示す変数である(高橋他, 2007)。AGは他者との関係を競争的と捉える態度に関連する変数である(高橋他, 2007)。このAGは自己主張的な意味合いを含んでおり,適応的側面を持つが,反面AGの過度な高さは対人関係を攻撃-非攻撃の関係として知覚しやすいという危険性を示す。しかし,本研究で得られたAGの平均値(0.32)は期待値(高橋他,2007)の範囲内であることから,AGの肯定的側面を反映しているものと考えられる。したがって,情緒表現の豊かさを反映するアイテムへの多彩色は,S-の怒りによる衝動性やAGの攻撃性を抑え,3r+(2)/Rの自己への関心やBlendsRの心理的な成熟性を反映している可能性がある。1-5性質・特徴の表現について性質・特徴の表現では,自己知覚クラスターのH(r=.407)とに正の相関がみられた(Table 1-2)。Hは人に対する関心の程度を示し,自己イメージや自己評価の形成に肯定的な対人関係が寄与していることを表わす変数である(Exner, 2000中村・野田監訳2002)。また,本研究ではその他にH:(H)(r=.477)においても正の相関がみられ,性質・特徴の表現得点が