心理学年報31号 page 17/54

心理学年報31号

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加納・石井:風景構成法の客観的解釈に関する検討13ならぬ問題を示唆している(伊集院・中井,1988)。本研究で相関関係が得られたBlendsRは,思考に介入する感情の程度を示唆する変数である(高橋他, 2007)。また,適度なAGは既述のように自己主張的な意味合いを含んでおり,適応的側面を持っている(高橋他,2007)。したがって,LMTCLで山得点が高くなるほど,自身の課題に対し客観性と自己主張性を持って行動できるといった適応面を反映していると考えられる。2-2道について道では,思考クラスターのMOR(r=-.423)とに負の相関がみられた(Table2-1)。MORは,否定的・悲観的な自己イメージの見方を示しており,抑うつとも関連する(高橋他,2007)。従来の道に関する知見によると,道は山に向かう道や川と直行する道など様々な形態をとり,意識の象徴であると共に人生の目標であると解釈されている(大石,1988)。したがって,LMTCL道得点の低下は人生の目標に対する不安や否定的自己イメージを反映している可能性があると考えられる。2-3家について家では,媒介クラスターのS-(r=-.420)とに負の相関がみられた(Table2-1)。家は描画者が成長してきた家庭状況を表わし,自分が育った家庭や家族関係を表現しているといわれている(大石,1988)。S-は外界への反抗や怒りの感情を抱きやすいことから(Exner, 2000中村・野田監訳2002),LMTCL家得点の低さは,描画者の家族関係に加えて外界との交流に対する困難さを示唆しているのかもしれない。2-4人について人アイテムに関しては,しばしば描くことを拒否されたり,拒否されなくてもstick figure(棒人間)という線描写のみの図式的な表現で処理されたり,彩色されずに白抜きになることが多いとの指摘もある(山中,1984)。このことから人アイテムは抵抗の強い対象であると言える。さらに,人物像は極めて意識レベルの強い自己像の投影と解釈される(三浦,2003)。そのため,LMTにおける人の表現には,描き手の心的エネルギーが強く求められると思われる。また,本研究において,人はLMTCL描画アイテムの中でCS変数との相関が最も多くみられた(Table 2-1)。さらに人アイテムは現実検討力と,慣習的な行動がとれることを表わしているXA%(r=.515),WDA%(r=.508),X+%(r=.406),現実対処能力を示すP(r=.575)とに正の相関がみられた(Table2-1)。この結果からLMTCL人アイテムは現実世界における検討能力ないしは対処能力を反映すると推察される。また,H:(H)(r=.560)とCOP(r=.406)とに正の相関が,S-(r=-.661)とCDI(r=-.491)とに負の相関がみられた(Table2-1)。そのため,LMTCLの人得点の高さは,他者への肯定的な関心や現実的な理解から,成熟した人間関係を築けていることを反映していると考えられる。LMTの「人」アイテムが豊かに表現されるためには,多角的に分析されるべき性質を備えた心理的要素が必要であると指摘されている(澤田・内田・宮下,1993)。LMTCL描画アイテムの人が本研究で多くのCS変数と関連性を導き出せたのは,人アイテムが現実検討能力ないしは,豊かな対人関係など多角的な性質を包含しているためであると考えられる。2-5動物について従来の知見をみると,動物は潜在するエネルギーの程度と解釈されている(山中,1984)。さらに,「人を拒否した人も,動物は描く人が多い。人はなかなか信用できないけど,動物は裏切らないからであろうか。あるいは物言わぬ動物にひっそりと自分を託しているのかもしれない(山中,1984)」との指摘もある。動物では,H(r=.419)とS-(r=-.429)とにそれぞれ正負の相関がみられた(Table2-1)。これは人アイテムにも共通して関連性がみられたCS変数であり,衝動性の抑制と,人間への関心を示唆している。したがって人アイテムほど複合的な意味合いでないが,動物は人に代わる第二の自己像投影として衝動性の統制,人間への関心を反映しているのかもしれない。また,ロールシャッハ法における動物の意味付け(Exner, 2000中村・野田監訳2002)も解釈上参考になろう。2-6追加物について追加物は描画者の自由裁量に任された,描画アイテムである。そのため,追加物は「空白部分を埋め風景としてのバランスを保つ」,「プロセスが進むにつれてのズレを修正する」,「描き手のイメージを記号的に具象化する」,「見守り手に自分のイメージを伝える」という特徴もある(那須,2009)。本研究では,追加物とS-(r=.636),P(r=.625),M-(r=-.469),3r+(2)/R(r=.431),H:(H)(r=.420),COP(r=.411)とにそれぞれ正負の相関がみられた(Table 2-1)。S-,M-は認知の歪みの程度を示しており,追加物とは負の相関となっている。そのため,豊かな追加物の構成がなされるほど,描き手は物事との適度な距離感を保ち,外界を客観的に捉えられているものと推察され