心理学年報31号 page 18/54

心理学年報31号

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14明星大学心理学年報2013年第31号る。この結果はまさにCS変数からも示された通り,描画者の認知的側面を把握する項目であることが考えられる。さらに,「描き手のイメージを記号的に具象化する」,「見守り手に自分のイメージを伝える」といった解釈(那須,2009)は,CS変数の3r+(2)/Rが示す自己への関心と自尊心の程度(Exner,2000中村・野田監訳2002)と関連すると考えられる。したがって追加物は,LMTプロセスのなかでの認知的側面および自己イメージを示唆しているものと推察される。2-7合計点について描画アイテムおよびチェック項目得点の合計点では,S-(r=-.626),M-(r=-.477),P(r=.559),H(r=.412),H:(H)(r=.461)とにそれぞれに正負の相関がみられた(Table 2-2)。この結果からLMTCL合計点の高い者は,人アイテムで既に指摘したように,怒りや恨みなどの否定的感情に振り回されず,かつ現実的な他者認知ができるといった現実検討能力を有していることが考えられる。さらに,H,H:(H)との正の相関から,自己および他者に対する肯定的な関心があり,かつ想像ではなく現実に基づいた他者理解に繋がっているものと思われる。また,合計点は上記のCS変数の他にAG(r=-.415)と負の相関関係にあった(Table2-2)。したがって,風景が自然に描かれる(合計点が高くなる)ほど,内面に不安定な状況が生じても,それが他責的な形として表われにくい安定したパーソナリティを反映すると言える。2-8全体評価について全体評価では,S-(r=-.626),M-(r=-.477),P(r=.404)に加えてXA%(r=.423),GHR(r=.452),CDI(r=-.411)とにそれぞれ正負の相関がみられた(Table 2-2)。XA%は客観的な状況判断能力を示す変数である(Exner,2000中村・野田監訳2002)。また,GHRは対人関係における他者からの肯定的評価に繋がりやすい変数である(高橋他, 2007)。さらに,CDIが高い者は社会生活を送る上でのスキル不足に加えて,他者との適切な距離感が掴めずに成熟した人間関係を形成することが困難であると言われている(高橋他,2007)。LMTCL全体評価項目は,視点の整合性,配置の現実性,全体に見合う適度な大きさ,季節の整合性,項目以外の地の部分に色付けの項目から構成されており,風景全体からみた描き手の認知的側面をみる項目となっている。本研究から全体評価は客観的認知に基づいた,特に対人関係における適切な距離感の程度や,否定的感情の統制力を反映している可能性がある。2-9総合得点について総合得点では,合計点で見られたCS変数に加えて,3r+(2)/R(r=.404)とに正の相関がみられた(Table2-2)。これは自己への関心から自尊心の程度を示唆している(藤岡,2004)。総合得点は合計点と全体評価得点とを総計した変数であるが,全体評価でみられた対人関係における適度な距離感に加え,自分自身へのより適切な客観視にも繋がっているものと思われる。その他,S-(r=-.645),M-(r=-.491),P(r=.548)の媒介および思考クラスター,H(r=.403),H:(H)(r=.445),3r+(2)/R(r=.404)といった自己,そして,対人知覚クラスターとに相関がみられた(Table 2-2)。S-,M-,Pは否定的感情や現実離れした対人知覚,慣習に基づいた社会的判断能力等が問われる変数であり,現実検討能力を反映している。H,H:(H),3r+(2)/Rは自己と他者との関係性を示しており,合計点とAGとの負の関連を含めて,関心の程度や適切な距離感といった肯定的な対人関係の反映を表わしている。したがって,総合得点は全体的構成の程度から認知的側面を測ると共に,現実検討能力,感情統制,そして,自己と他者への関心の程度といった対人関係性を含む多角的な視点を有した指標であると推察される。2-10 CS変数と関連がみられなった川について本研究では,LMTCL描画アイテムの中で唯一,川アイテムにおいてのみCS変数との相関がみられなかった。つまり,本研究をみる限り,CS変数が明らかにする心理的仕組みや機能と,LMTCL川アイテムに反映される心理とは,一方からもう一方を予測しうるような関係にないのかもしれない。したがって,LMTCL川アイテムはCS変数とは異なる次元の心理的側面を備えている可能性があると推察される。これまで川については,最初に川を提示され真っ白な紙面を二分することによる精神的負荷のかかる状況下において,自我が十分に対応できるかどうかで,その描き方が変わるとの指摘がある(山中,1984)。さらに,「LMTで最初に提示されるアイテムは川であるが,これにより構成上の困難が設定されることとなり,その困難に対する描き手の処理の在り方に,描き手の自我の強さを見ることができる(高桑,2005)」という見解もある。そもそも,川は風景における個々のアイテム間の位置的関連性からの読み解きが重要である(皆藤,1994)。このように,川はLMTのアイテムの中で,全体配置