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心理学年報31号

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明星大学心理学年報2013,No.31,17―28資料簡易型近赤外分光法装置の前頭葉機能リハビリテーションへの応用に関する実験的検討?柴崎光世?簡易型近赤外分光法(near-infrared spectroscopic imaging; NIRS)装置は,設備投資費が比?的安価で,携帯性に優れ,患者への負担も少ないことから,前頭葉機能の認知リハビリテーションに導入しやすい脳機能測定装置として期待できる。他方,簡易型NIRS装置は,測定部位が前額面のみと固定されているので,反応抑制機能のような前頭前野でも背外側とかかわり深い脳機能と関連した血流変化をどこまでとらえることができるのかといった問題も含んでいる。本研究は反応抑制障害の認知リハビリテーションに関する基礎研究の一環として,種類の異なる2つのstimulus-responsecompatibility(SRC)課題を遂行中の健常者の脳血行動態を簡易型NIRS装置を用いて測定し,反応抑制に伴う血流変化をこのようなNIRS装置によって測定できるか否かについて検討をおこなった。その結果,簡易型NIRS装置を用いた前額面の脳血流測定であっても,背外側前頭前野の活動を起源とすると思われる反応抑制にかかわる脳血流変化をとらえられることが示唆され,前頭葉損傷者の反応抑制障害の評価や治療的介入に伴う訓練効果の測定に本研究で使用したような簡易型NIRS装置が適用できる可能性が示された。Key Words:脳損傷,前頭葉,反応抑制障害,認知リハビリテーション,NIRS脳血管障害や交通事故などによって脳の前頭前野が損傷されると,発動性やプランニング,認知的柔軟性,社会的認知といったいわゆる前頭葉機能の障害に加えて,患者の日常生活のさまざまなレベルにおいて抑制機能の障害が生じることが知られている。たとえば,保続に代表される習慣的動作や習慣的反応の抑制の失敗や,問題解決場面での課題無関連な刺激に対する注意や反応の抑制障害といった比?的単純なものから,社会的場面における情動の制御や場にそぐわない不適切な言動の表出など,多様な抑制機能障害が出現し,こうした障害が患者の日常生活場面や人間関係において種々のトラブルを引き起こすことも少なくない。抑制機能の障害は,患者の円滑な社会生活や社会復帰に悪影響を及ぼす重大な阻害要因の1つとなるため,発動性やプランニングなどのその他の前頭葉機能と同様Correspondence concerning this article should be sent to :Mitsuyo Shibasaki,Department of Psychology, Meisei University,Hodokubo, Hino, Tokyo 191-8506, Japan (e-mail:mitsuyo@psy.meisei-u.ac.jp)?明星大学人文学部?本研究は科学研究費補助金若手研究(B),課題番号:21730566)による助成を受けた。?本研究の実施やデータ処理に関しては,明星大学人文学部心理・教育学科心理学専修平成23年度卒業生の鎌倉衣里さんと?巻温子さんにご協力いただきました。心より御礼申し上げます。に,何らかの治療的アプローチが必要と考えられる。前頭葉由来の抑制機能障害のうち,保続や攻撃行動・叫びといった問題行動,あるいは情動の抑制障害については,行動療法や認知行動療法を中心とした治療的介入が既に試みられており,一定の成果をあげている(Alderman,1991,Alderman& Burgess,1994,Alderman,Fry,& Youngson,1995,Alderman & Knight,1997,Alderman& Ward,1991,Hanlon,Clontz & Thomas,1993,Manchester,Hodgkinson, & Casey, 1997, Matthey, 1996, Medd & Tate,2000, Watson, Rutterford, Shortland, Williamson, & Alderman,2001)。たとえば,Alderman& Ward(1991)は,頻回に呈する繰り返しの発話によってリハビリテーションの進行が妨げられていた36歳のヘルペス脳炎患者に対し,レスポンスコストと認知的過剰学習を利用した行動療法的な認知リハビリテーションを実施した。この研究では,患者は,15分の訓練セッションの冒頭に50ペンスを渡され,繰り返しの発話を発するごとに1ペンスを治療者に渡し,あわせて,「私は繰り返してはいけない(I must not repeat myself.)」と1分間言い続けるよう教示される。訓練セッション終了後に46ペンス以上が残っていたら,患者の好物のチョコレートと交換することができた。このような介入を30セッションに渡って実施したところ,患者の保続的な発話はベースラインやレスポンスコストのみの介入を単独におこなった場合と比べて大きく減少し,さらに,病