心理学年報31号 page 22/54

心理学年報31号

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心理学年報31号

18明星大学心理学年報2013年第31号棟生活への訓練効果の般化や,訓練終了から3ヵ月後のフォローアップにおける訓練効果の維持も観察された。Medd & Tate(2000)は,情動制御の問題に関して,認知行動療法的な手法に基づく認知リハビリテーションを実施した。この研究では,怒りの制御に問題のある頭部外傷者に対して,1)脳損傷の原理や脳損傷の結果として生じる怒りの制御障害に関する心理教育,2)自身の怒りについての気づきの促進,3)リラクゼーションやタイムアウト法などの怒り反応を軽減させる方略の適用,の3つの段階からなる訓練プログラムを導入したところ,このような治療的介入を受けた治療群では,自身の日々の怒りをモニターするのみであったウェイトリスト群に比べて,怒りに関する評価測度(State-Trait Anger Expression Inventory,STXI,Spielberger,1988)に有意な改善が認められた。ただ,この効果は介入から2ヵ月後のフォローアップでも持続したものの,自尊感情や不安,抑うつ,自身の障害への気づきに関する各測度における訓練効果の般化は示されなかった。ところで,前頭葉損傷者が,Stroop課題に代表される認知的葛藤事態で,課題に無関連な刺激に対する注意や反応を抑制できずに遂行障害を示すことはよく知られているが,前頭葉損傷による抑制機能障害のうち,特に,背外側前頭前野の損傷と関連が深い(Stuss,2007,2009)このような反応抑制障害については,これまで治療的アプローチが試みられることがほとんどなかった。そのため,こうした障害が認知リハビリテーション的な介入によって改善するかどうかについてはあまり検討されていないのが現状である。また,先に示した抑制機能障害の認知リハビリテーションでは,患者の抑制障害や訓練効果の評価に関しては,問題行動の生起頻度や質問紙といった行動測度が主に用いられているが,機能的MRI(fMRI)やポジトロンCT(PET)といった非侵襲的な脳機能測定装置の昨今のめざましい発展に伴い,脳損傷後遺症に対するリハビリテーションの領域にこうした技術を応用することに関心が高まっている(Carey & Seitz, 2007,Dobkin,2004,Mainero,Pantano,Caramia,& Pozzili,2006,Mun?oz-Cespedes,Rios-Lago, Paul,Maestu, 2005, Strangman, et al. 2008)。なかでも,近赤外分光法(near-infrared spectroscopic imaging; NIRS)は,その安全性の高さや拘束性の低さから,臨床応用に適した脳機能測定装置の1つと考えられ,とりわけ,前頭葉の血流測定に特化した簡易型NIRS装置は,設備投資費が比?的安価で,携帯性に優れ,大規模なNIRS装置に比べて患者への負担も少ないことから,前頭葉機能の認知リハビリテーションに導入しやすい脳機能測定装置として期待できる。しかし,簡易型NIRS装置は,測定部位が前額面のみと固定されているので,たとえば,反応抑制機能のような前頭前野でも背外側とかかわり深い脳機能と関連した血流変化をどこまでとらえることができるのかといった問題も含んでいる。そこで,本研究は反応抑制障害の認知リハビリテーションに関する基礎研究の一環として,認知的葛藤課題を遂行中の健常者の血行動態を簡易型NIRS装置で測定し,反応抑制に伴う血流変化をこのようなNIRS装置で測定できるか否かについて検討をおこなった。具体的に,本研究では,認知的葛藤課題のなかで,Stroop課題と比べてこれまでNIRS研究でとりあげられることの少なかったstimulus-responsecompatibility(SRC)課題を使用し,実験1では2チャンネル,実験2では16チャンネルの簡易型NIRS装置を用いて,課題遂行中の実験参加者の前額面の脳血行動態を記録した。もしも,簡易型NIRS装置による前額面の血流測定においても,反応抑制と関連する血流変化をとらえることができるのであれば,前頭葉損傷者の反応抑制障害の評価や治療的介入に伴う訓練効果の評価にこうした装置を適用できる可能性が生じると思われる。目的実験1刺激と反応の空間的位置の一致性を操作するSRC課題のうち,実験1では,Goghari& MacDonald(2009)の課題事態にならい,呈示された単語刺激が示す位置(左または右)と実験参加者の反応の位置(左または右)の一致性を操作するSRC課題を使用して,課題遂行中の実験参加者の前額面の脳血行動態を2チャンネル型NIRS装置により測定した。方法実験参加者健常な視力または矯正視力をもったエジンバラ利き手検査(Oldfield, 1971)による平均利き手指数が93.2の10名の右利き大学生(男性2名,女性8名,平均21.2歳)を実験参加者とした。実験計画単語刺激が示す位置と実験参加者の反応の位置の一致性に関して,単語刺激が示す位置と反応の位置が一致する一致条件,単語刺激が示す位置と反応の位置が一致しない不一致条件,一致条件と不一致条件の試行がランダムに出現する混合条件の3条件を設けた(Figure 1)。刺激と装置黒色画面の中央に呈示された赤色または緑色の漢字で書かれた単語「左」または「右」(い