心理学年報31号 page 36/54

心理学年報31号

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心理学年報31号

32明星大学心理学年報2013年第31号IN(不注意)との相関係数が0.26,HY(多動性・衝動性)との相関係数が0.91,LP(学習の問題)との相関係数が0.01,EF(実行機能)との相関係数が0.69,AG(攻撃性)との相関係数が0.69,PR(友人関係)との相関係数が0.67であった。考察本研究では,公立小学校の情緒障害学級(通級)に通う発達障害児の保護者を対象に,保護者のストレスを調べる質問紙とConners3の2種類の検査を行い,保護者のストレスと子どもの行動特徴の関係を明らかにすることを目的とした。その結果,保護者のストレスととても高い相関が見られたのは子どもの多動性・衝動性という特性であり,ある程度の相関があったのは実行機能,攻撃性,友人関係であった。一方,相関が見られなかった特性は不注意と学習の問題であった。結果からは,保護者のストレスと子どもの多動性・衝動性に相関があるということが分かっただけで,因果関係まで明らかになったわけではないが,子どもの多動性・衝動性が保護者ストレスを高めた可能性や,逆に保護者ストレスが子どもの多動性・衝動性を高めた可能性が示唆される。もし,子どもの多動性・衝動性が保護者ストレスを高めたとするなら,保護者のストレスは子どもの行動の質的な面よりも量的な面に影響されることを示しているのかもしれない。例えば,少ない頻度で起きる深刻な問題(暴力など)よりも多くの頻度で起きる比?的深刻さの低い問題(口ごたえや指示に従わないことなど)の方が保護者のストレスに強く影響するということである。このことは,攻撃性よりも多動性・衝動性の方がストレスと相関が高かったという結果からも支持される。一般的に多動性・衝動性に由来する問題行動は,保護者が子どもから目を離せない状況や繰り返し子どもを注意・叱責したり指示したりする状況を作りやすいと考えられる。こうした状況下では,保護者は落ち着く間がないとか家事や仕事ができないといったことが起きやすくなり,保護者のストレスが高く評価されたとしても不思議ではない。また,何らかの原因で高まった保護者のストレスによって子どもに対する保護者の行動が不安定になったり攻撃的になったりした結果,子どもの多動性・衝動性が高まった可能性を考えることもできる。保護者のストレスとある程度の相関が見られた実行機能,攻撃性,友人関係については次のように考えることができるかもしれない。実行機能の問題は,日常生活での宿題,家事,整理整頓といった保護者との関わりが深い活動において,スムースな遂行を困難にする可能性があるだろう。つまり,日常生活のおける様々な活動において取りかかりが遅く,失敗が多く,途中で投げ出してしまうことを介してストレスに影響しているという可能性である。攻撃性については保護者が被害にあったり,見たり,報告を聞いたりしただけでもストレスに影響するのは一般的なことであろう。友人関係については,単に子どもの社会的環境に対する心配があるだけでなく,友人関係の問題がコミュニケーション能力の低さを背景としている場合,保護者とのコミュニケーションが円滑に進まないことが多くあることが推察される。コミュニケーションが円滑でないことはストレスに影響する要因として一般的に認められている。また,逆に保護者のストレスが高まった影響で実行機能,攻撃性,友人関係に問題があると評価された可能性があることは前述したとおりである。保護者のストレスと相関が見られなかったものは,不注意と学習の問題であった。多動性・衝動性と同じADHDの行動特徴でありながら,不注意はストレスとの相関がまったく見られなかったことが興味深い。不注意は集団活動では問題視されることの多い行動特徴であるが,一対一の関わりが多い家庭では特に問題視されないことが考えられる。簡単に言うと,保護者の手を煩わせることが少ない特徴と言えよう。対して,学習の問題が保護者のストレスと相関が無かったことは,素朴な直観とはずれている。世間一般の多くの保護者は子どもの成績に関心を持っているように見えるからである。しかし,本研究の結果はそうした素朴な直観とは異なるものであった。考えうる可能性としては,本研究の参加者の子どもは特別支援教育を受けている発達障害児なので保護者は学習面での成果よりも生活面や問題行動といったことに重きを置いて子育てをしているということである。つまり,学習の問題が保護者のストレスに影響するかどうかは,その保護者の子育てにおける目的や価値観といった家庭の文脈によって大きく異なるのかもしれない。今後の課題として,さらにデータを蓄積し,相関関係だけでなく保護者のストレスに影響する子どもの行動特徴について因果関係の検討をする必要があるだろう。また,そうした分析からストレスの原因別に子育てを支援する方法を提案する必要があるだろう。引用文献Conners, C. K. (原著)・田中康夫(監訳)・坂本律(訳) (2011). Conners 3??日本語版マニュアル