心理学年報31号 page 5/54

心理学年報31号

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明星大学心理学年報2013,No.31,1―6原著アスペルガー障害児におけるビデオセルフモニタリングによる不適切行動の制御――個別面接場面での逸脱行動の低減――榎本拓哉?竹内康二??本研究は,アスペルガー障害のある児童による不適切行動の低減を目的としたビデオセルフモニタリングの効果について検討することを目的とした。研究開始時,生活年齢10歳の男児1名を研究参加児とした。参加児は,家庭での不適切行動の改善を目的として専門家による個別の支援を受けていたが,学校や家庭でのできごとを聞き取る面接場面において,不要物をいじる,トレーナーの妨害をするなどの行動問題が見られ,円滑なプログラムの実施が難しい状態であった。個別面接場面での不適切行動を低減するために,該当の場面を撮影したビデオを参加児に提示し,本人に評価してもらった。結果,言語での制止,環境調整などでは変化が見られなかった不適切行動の頻度が,ビデオセルフモデリング導入後は大きく減少した。今後の研究では,より自然なセッティング内でビデオセルフモデリング手続きを導入するための諸条件の検討が望まれる。キーワード:ビデオセルフモニタリング,アスペルガー障害,行動問題はじめに2007年より施行された特別支援教育では,通常学級で保障することが求められている一方で,通常学級に在籍している発達障害の診断および発達障害が疑われる児童は,その特性から種々の行動問題を抱えていることが報告されている(大久保・福永・井上, 2007 ;興津・関戸,2007)。このような行動問題は,本人の大きな不利益になるだけでなく,学級経営上に大きな否定的影響を及ぼすこともあり,早急に解決することが求められており,様々な方法論から継続的な支援が成されている。このような支援方略の中にセルフモニタリングという手続きがある。セルフモニタリングとは,自己行動の観察と記録という2つの過程から構成されており,自分の行動について観察を行い,その後,頻度や時間,生起条件などを記録することで,特定の行動を制御する手続きである(竹内・山本,2004)。肯定的な効果は,教科学習の向上(Takeuchi & Yamamoto, 2001),向社会的行動(Charlop-Christy& Daneshvar,2003),問題行動の改善(Mace & Kratochwill, 1988 ; Levendoski & Cartledge,2000)など多岐に渡って報告されている。特に,環境的な配慮が最小限で実施できること,問題行動自体だけではなく,周囲との関係性が肯定的に変化するなどの二次的効果も報告されているため,通常学級に在籍する発達障害児のインクルージョンを助ける支援方法として有効な手段であるとされている(竹内ら,2004)。そして近年,ある行動について撮影したVTRを視聴しながらモニタリングを行うビデオセルフモニタリング手続きが開発され,本邦でもいくつかの臨床報告が成されている(石阪・宮崎・佐野・井上,2008;根来・谷川・西岡,2006)。石坂ら(2008)では,広汎性発達障害児自身の余暇活動を充実させる目的で3種類のカードマジック実演スキルの習得を試みており,カードマジックを演出するスキル(ショーマンシップ)の獲得についてビデオモニタリング手続きが適用されていた。結果,ビデオモニタリング手続きによって対象児童のショーマンシップスキルが獲得されたことから,微細な刺激性制御から成る複雑な行動の獲得についてビデオモニタリング手続きが肯定的に寄与すると結論付けている。しかしながら,ビデオを用いたモニタリング手続きの多くは,コミュニケーションスキルや日常のルーチンワークのような,新規の行動の獲得について適用されており,セルフモニタリング手続きで報告されているような,不適切な行動の出現頻度の減少を指標として行われているものは少なく,臨床研究知見の蓄積が求められている。?明星大学心理相談センター??明星大学人文学部