心理学年報31号 page 6/54

心理学年報31号

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心理学年報31号

2明星大学心理学年報2013年第31号本研究の目的そこで本研究は,アスペルガー障害のある児童の行動問題に対して,ビデオセルフモニタリング手続きが不適切行動の制御に与える効果の検討を目的とする。特に,様々な行動問題の中でも,言語指示のような方略では解決の難しい注目の機能によって維持されている高頻度な不適切行動に対する効果を検討していく。方法参加児幼児期に専門機関においてアスペルガー障害の診断を受けた生活年齢10歳の男児1名を本研究の参加児童とした。研究実施時に参加児は公立A小学校の第4学年に在籍していた。本研究開始1年前より,B大学で開設されていた個別の治療教育に参加していた。治療教育参加時の保護者からの主訴は,『家庭内での暴言,暴力(主に母親に対して)がひどく,叱ったり注意をすると益々激しくなって手が付けられなくなってしまう』『自分勝手に行動し,宿題や準備などを行わないこと』の2点であった。個別の治療教育では,自己コントロールを目的に,その日にあった学校でのエピソード報告や補助スタッフとの集団遊びを行っていた。治療教育場面においては,聞き取りが長くなると注意が逸れ,課題と関係のない逸脱行動が散見されていた。主訴で挙げられたように,このような逸脱行動は言語の注意では低減しないだけでなく,注意されたことを契機に,行動の強度,頻度の両側面で増加を見せていた。更に,不要物や注意を奪う刺激を撤去することでも減少することはなかった。以上の行動的特徴から,参加児の逸脱行動について機能分析を行ったところ,他者(個別療育場面ではトレーナー)からの注目および課題からの回避という2つの機能を持っていると考えられた。介入場面個別治療教育場面内の言語報告場面を介入場面と設定した。言語報告場面とは,その日に学校で起こった出来事を1時間目から放課後まで対面に着席したトレーナーに説明するものであった。説明する内容は1該当時定の授業名,2授業の内容であり,すべての時間割について説明するまで言語報告を続けた。そのため,総時間にばらつきはあったが,全セッション共に25分前後であった。言語報告場面のセッティングをFigure 1に示した。Figure 1介入場面のセッティング研究デザインと介入方法本介入は,ベースライン期,介入期から成るABデザインを適用した。ベースライン期で,トレーナーは参加児と向かい合って着席し,学校でのできごとについて言語報告を求めた。言語報告と関係ない不適切な行動が見られた場合には,聞き取りを行っていたトレーナーが言語による注意(「それはいま止めて下さい」)を行った。言語による注意でも不適切行動が中止されなかった場合には,不適切行動を成立させている刺激(例えば,落書きで使用している鉛筆など)を撤去した。介入期では,言語報告場面の前に前回の言語報告場面のVTRを参加児に見せ,自身の行動について自己評価する手続きを導入した。VTRは15秒×25シーンから構成されており,それぞれのシーン間には5秒のブランク(黒画面)が設けられていた。VTRの各場面は,前回の言語報告場面を15秒毎に区切ったものから,乱数表で選択した25シーンを抽出して編集を行った。そして,参加児は各シーンの自己行動について自己評価を行った。自己評価は,「ビデオを見て,自分がとても興奮していると思ったら4を,全く興奮していないと思ったら1に丸をしてください」と教示し,各シーンをモニタリングシートに記入する形で実施された。参加児は1シーンを見終わった後,ブランク中にモニタリングシートの該当する項目へチェックを記入した。本研究で使用したモニタリングシートをFigure2に示した。なお,VTRの視聴やモニタリングシートの評価内容に関しては,言語賞賛およびフィードバック等は行わなかった。VTRでの自己行動チェック後は,ベースライン期と同様の手続きで言語報告場面を実施した。