ブックタイトル明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

明星大学心理学年報2014,No.32,19―23原著重度知的障害児へのビデオフィードバックを用いた行動支援――自由遊び場面での不適切行動の修正から――榎本拓哉?竹内康二??本研究では,重篤な知的障害を伴う自閉性障害児による問題行動の修正のために,ビデオフィードバック手続きを導入した。研究開始時6歳5ヶ月の男児を実験参加児とした。参加児は,初語の遅れ,常同的な行動を繰り返すなどの発達の遅れから,専門機関で知的障害を伴う自閉性障害の診断を受け,大学の相談機関で治療教育を受けていた。治療教育場面および家族からの報告より,女性の身体を文脈に関係なく触るといった問題行動が散見された。以上の問題行動を低減するために,問題行動が生起した場面を撮影したビデオを参加児に提示し,本人に評価してもらった。結果,言語での制止では変化が見られなかった問題行動の頻度が,ビデオフィードバック導入後は大きく減少した。今後の研究では,知的水準や認知および行動特性も踏まえた適用限界についての吟味が求められるだろう。キーワード:重度知的障害,ビデオフィードバック,行動問題問題提起自閉性障害児者が示す行動問題を解決するために,1970年代より様々な支援方略が開発されている。その中でも,近年報告が成されている新しい手続きに,観察学習を利用した支援プログラムが存在している。観察学習を利用することで,より生活場面に近い環境下で,自ら積極的に適応的な行動を学習できるといった肯定的な報告が成される一方で,自閉性障害児は通常学級などの自然な状況下では注目すべき刺激やモデルがわからないことや問題行動による妨害で,観察学習が進まないなどの否定的な結果も報告されている(Varni,Lovaas,Koegel & Everett,1979)。しかし,1980年代後半より,自閉症児であっても観察場面に存在する刺激を統制することで,観察学習による即時の行動獲得と長期間に渡る維持,場面・対人・刺激般化などの肯定的な効果も多く報告されている(Haring,Kennedy,Adams & Pitts Conway,1987)。特に,ビデオなどの視聴覚教材を利用した観察学習手続き(ビデオモニタリング)によるスキル形成や,ビデオ動画での行動パフォーマンスのフィードバックによって行動の修正を促すビデオフィードバックへの注目が集まっている(Buffington,Krantz,McClannahan,& Poulson,1998;Egel,Richman,& Koegel,1981;Charlop,Schreibman,&Tryon,1983)。ビデオフィードバック手続きとは,自己の行動につ?明星大学心理相談センター??明星大学人文学部いてビデオを視聴することで行動の獲得および修正を狙う手続きと定義されている(Maione & Mirenda,2006)。ビデオフィードバック手続きの効果を報告した研究を概観すると,ビデオフィードバックを主な介入手続きとして明記した研究は少なく,社会的スキル訓練(Social Skills Training:SST)の維持方略やホームワークとして記載されているものが多い(DiGennaro,Florence,Hyman& Hirst,2011)。そして,支援対象および標的行動を見ると,自閉症スペクトラム障害児の中でもアスペルガー障害もしくは知的障害のない高機能群と呼ばれる対象として,応答行動(Nikopoulos & Keenan,2003)や自発コミュニケーション(Nikopoulos& Keenan,2004),運動では自転車に安定的に乗る(Charlop-Christy,Le & Freeman, 2000)など,複雑かつ高度な行動を標的行動として設定している。しかしながら,榎本・竹内(2010)によると,VTRという具体的な視覚刺激を用いるため,認知上の問題を大きく抱える自閉症スペクトラム障害児者や重度の知的障害を抱える児童についても,自己行動の正確な評価が行える可能性が仮説として示されている。ただし,このような主張は可能性として提起されているだけに留まっており,検討可能な客観的な検討は行われていないのが現状である。目的そこで本研究では,自由遊び場面での関わりの中で,重度の知的障害を抱えた児童の対人への不適切な関わり行動について,個別のビデオフィードバック手続き