ブックタイトル明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

近藤・竹内:幼少時に母との死別を経験した子どもの経過に関する研究33分かる。そして子どもの心的適応には,外的な支援者の存在が大きく関わっており,支援者が外的環境要因や「支援者を支援する人」からの影響を受け,それが子どもの精神的な回復の大きな要因となると考えられる。一方Brewer & Sparks(2011)は,保護者との死別後に子どもの生活を支える要因を明らかにするため,死別を経験した子どもたちをサポートする施設である英国の「ロッキーセンター」に通う十三人の子どもたちに対する半構造化面接と,その後の追跡調査を行った。これらの参加者のうち四人は死別を経験してから2~4年経過しており,他の九人は10年以上前に死別を経験していた。親と死別した子どもたちとの面接の結果から,次に説明するような七つの支援のポイントが抽出された。一つめは,「感情の表現」である。参加者はEkman(1999)が提唱した根本的情動と重なる,悲しみ,怒り,恐怖,喜びの四つの情動を抱えていた。これらの感情を表現することは,死別経験を乗り越えるにあたって重要なことであり,ロッキーセンターではこれらを言葉で述べるレパートリーを手に入れることをサポートしている。二つめは,「身体的積極性」である。体を動かすことは,子どものメンタルヘルス向上の手助けとなり,子どもが親の死を乗り越えるために役立ったとされる。三つめは,「大人との肯定的な関係」である。近年の研究では,生き残った親との関係が死別後の子どもの人生に強い役割を持つとされていた。しかし参加者の語りから,亡くなった親との肯定的な関係も死別体験を乗り越えるにあたって,深い意味を持っていることが明らかになった。四つめは「能力の範囲」である。音楽活動や絵画などの芸術活動に打ち込むなど,積極的な活動を行うことは,親との死別に対処する有用な方法であることが示唆された。五つめは「フレンドシップ/社会的支援」である。同じ経験のある他の子どもとの肯定的な関係は,死別を経験した子どもが幸福な人生を送ることの助けになると推察される。六つめは「ユーモアや楽しさを持っているか」である。楽しみを持つことやユーモアのセンス,笑うことは悲嘆への対処における重大な資源であることが明らかになった。七つめは「克服」である。死別対象との心的再結合,死別経験に対するポジティブな考え方が悲しみを乗り越えることに役立つことが明らかになった。Cerel et al.(2006)が行った大規模な群間比?研究から,死別経験のある子どもの精神健康度について一般的な傾向が示唆されたが,このような群間比?研究では個々の適応状態に影響する具体的な要因や,あり得る支援の方法について得られる情報が少ない。それに対してBrewer & Sparks(2011)は丁寧な面接と追跡を行い,その結果個々の適応状態に影響する具体的な要因や,あり得る支援の方法をいくつか抽出した。しかし,Brewer& Sparks(2011)の報告は英国のものであり,宗教や文化の異なる我が国においても同様のことが言えるのかどうか検討する必要があるだろう。特に,養育の中心的な存在である母親が亡くなった時,具体的に子どもの養育環境がどのように変化し,子どもがどのような成長をするのかは,個々の家庭や親族の状況によって大きく異なると考えられる。日本における具体的事例のライフストーリーから,死別経験のある子どもが適応的な生活をおくるために必要な要因について詳しく検討することが大切であると考えられる。目的そこで本研究では,幼少期に母親と死別した成人男性,および子どもが幼少時に妻を亡くした父親を対象に面接を行い,この二つの事例に基づいて幼少期に母親と死別した子どもの養育に関する課題を検討することを目的とした。方法対象者面接の対象者は,2歳8ヶ月で母親をなくした子どもの父親(53歳)と,5歳のときに母親と死別した経験のある男性(28歳)の二人である。前者の家族をケース1,後者の家族をケース2とする。両者に対して本研究の目的を説明し,文書により協力の同意を得た。ケース1においては,子どもをC 1,父親をF 1,亡くなった母親をM 1,再婚した母親をM’1,と表記することとする。面接時のケース1の家族構成は以下の通りである。C 1は22歳大学生。F1は53歳自営業で,妹(C1の叔母)が一人いる。M1は生前専業主婦であり,33歳で亡くなった。姉(C1の叔母)が一人いる。M’1は45歳,3人姉妹の末っ子。F1とは大学の同級生であり,28歳の時にF 1と結婚した。C1の異母兄弟(つまり再婚後に生まれたM’1の子)が二人おり,一人は14歳中学校2年生,もう一人は12歳小学校6年生であった。ケース2においては,子ども本人をC 2,父親をF 2,亡くなった母親をM 2,再婚した母親をM’2,M’2の連れ子を姉と表記することとする。以下に家族構