ブックタイトル明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

近藤・竹内:幼少時に母との死別を経験した子どもの経過に関する研究35成を記す。C2は28歳,東京の大学を卒業後,アルバイトをしながらお笑い芸人を目指している。F2は57歳市役所勤務の公務員。姉(C2の叔母)がいる。M2は生前専業主婦であり,34歳の時亡くなった。3人兄弟の末っ子であった。M’2は57歳,F2との再婚前に離婚経験がある。F2の高校の同級生であり,M2の死後同窓会でF 2と再会し,30歳のとき再婚した。C2の実兄は32歳で既婚者。C2の異母姉は28歳で性同一性障害を持っている。C2と同級であるが誕生日が数ヶ月早い。手続きF 1およびC 2を対象にそれぞれと個別に,個室で,面接者による一対一の半構造化面接を行った。面接時には,母親の生前および死後の家族状況や家族の心的変化について面接者が質問をした。面接者は対象者の解答を可能な限りすべて書き留めた。面接時間は両ケースとも1時間半程度であった。面接終了後は,面接により得られた情報を時系列に沿って整理した。結果ケース1ケース1に関して,F1の面接から得られた情報をTable 2に示した。Table 2によると,1992年12月,M 1が入院し手術を行う。入院と同時にC 1はM 1の実家で暮らすようになる。1993年6月3日(C1が2歳8ヶ月時)にM 1が胃ガンからの転移により33歳で亡くなり,M1とF 1の両家系でC 1の処遇(どちらが育てるか)についてもめる。そこで,M1の姉は,C1をM 1の姉が一定期間引き取った後,F1とC 1が暮らすことを進言した。両家族ともこの案に合意したため,C 1は叔母(M1の姉)と暮らすようになる。その後C 1は友人の勧めにより,造型教室に通い始め,その教室のS先生と出会う。この後,S先生はF 1の助言役となる。このときS先生の「F1がC 1を無理に連れ戻すのではなく,(関係者全員の様子を見ながら)ソフトランディングさせたほうが良い」との助言を受けてF 1はこれに従い,C1を無理に引き取るのをやめる。1995年7月(C1が4歳9ヶ月時),F1がM’1と再婚する。これを期にM’1がC 1の幼稚園の送り迎えを担当することになる。1996年3月頃(C1が5歳5ヶ月時)F1がC 1を引き取り,比?的スムーズにF 1,C1,M’1三人での生活が始まる。しかし,この時点でC 1の赤ちゃん返りが見られるようになる。1996年9月(C1が5歳11ヶ月時)にC 1の赤ちゃん返りが見られなくなる。1997年(C1が6歳頃)M’1がC 1の弟を妊娠する。そして1998年4月24日(C1が8歳6ヶ月時)に一人目の弟を出産している。その後は,特別な問題を起こすことなくC 1は大学に進学し,本研究実施時には大学4年次として順調に単位を取得して大学院への進学が決まっていた。ケース2ケース2に関して,C 2の面接から得られた情報をTable 3に示した。Table 3によると,1987年(C2が3歳時)M2が実家で療養をはじめ,C2の世話をF 2と祖母(F2の母)で始める(幼稚園の送り迎えはF2)。1989年12月(C2が5歳時)にM 2が心臓の病気により34歳で亡くなる。この時M 2の母はC 2を引き取る気はなかった。この時点から基本的にはF 2,兄,C2の三人暮らしが始まる。C2の養育者としては,F2,F2の母,F2の姉,M2の父が挙げられる。その間のC 2の家は,兄の友人のたまり場になり劣悪な家庭環境であった。1995年3月(C2が10歳時)F2が再婚する。C 2は再婚に賛成するが,兄,姉は反対する。再婚後,姉は精神的に荒れ,窃盗,作話等の反社会的行動を繰り返す。兄も同様に反抗的態度をとる。これらの要因から,家庭内の関係が「ギクシャク」しており,C2は周囲に気を使って生活していた。F2とM’2は再婚後,子どもを作らなかった。2003年3月(C2が18歳時)にC 2は高校を卒業。家庭や地元から離れて生活したかったために東京の大学へ進学。本研究実施時にはフリーターながら自立して生活していた。考察本研究では,幼少期に母親と死別した子どもの養育に関する課題を具体的事例に基づいて検討するために,成長した子ども本人と,残された保護者に対する半構造化面接を行い,子どもの養育環境の変化を時系列に沿って整理した。この結果を踏まえ,それぞれのケースにおいて母親の死後に子どもの養育を支える要因について考察した。ケース1においては,C1が2歳8ヶ月時点でM 1と死別したにも関わらず,約半年間の赤ちゃん返りを除いては,大きな問題なくC 1は成長したと考えられる。つまり,比?的順調にM 1の死別に対応したケースと考えられる。両親の死別後の家族・他者との関係性はその後の子どもの心的適応に大きな意味を持っていると考えられる(倉西,2010)。Bowlby(1980/1981)は死別を経験した子どもが,成人同様に喪失対象とは別の愛着対象を見つけることの重要性を説いている。ケース1においてはF 1の再婚が早く,M1との死別から2年7ヶ月後