ブックタイトル明星大学 心理学年報 第32号

ページ
44/74

このページは 明星大学 心理学年報 第32号 の電子ブックに掲載されている44ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

明星大学 心理学年報 第32号

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

明星大学 心理学年報 第32号

40明星大学心理学年報2014年第32号う状況が生まれていた。また浜側に集中していた漁業や観光などの産業・資源は壊滅的な被害を受けた(被災状況及び田野畑村の現状は,田村ら(2012)に詳しい)。復興に向けた様々な行政的支援,多くのボランティアによる物的・人的支援が進む一方で,元来メンタルヘルス過疎ともいうべきこの地域には,メンタルヘルスに関する資源はほぼ無いに等しい状況であった。実際にこの3年間で5名の自死者が出ているが,マンパワーを含めた資源の不足によって,必要なところに必要な支援が届いていない。震災後初めての夏に心理支援を目的に入村した筆者らが体験したのは,中村・木村・黒岩(2012)が言うように「必要とされている,しかし,どう対応できるのかという困惑」だけだった。歴史的に凝集性の高いコミュニティを持つ田野畑村に外部の,それもメンタルヘルスの支援者が入り込む間隙はどこにもないように思われ,そればかりか,強固な自助・共助のつながりで維持されているこのコミュニティに対して,むやみに提供する心理支援は侵襲的に受け止められ,被災の傷を大きくすることになるとさえ思われた。そこで,喜多・黒岩・廣池・岩崎・久保(2012)をはじめとする有志チームは,この現状を分析し,これまで蓄積された臨床知見を土台にするものでないとしても,一般的な心理支援にとどまらない支援を試み,それを田野畑村独自のメンタルヘルスのシステムへと昇華させていく長期的な支援システム構築の道をアクション・リサーチとして模索し始めた。その中心が,被災者への「バラ配布」とファンタジックな空間を演出した「食事会」の開催であり,これらは非日常体験とコミュニティの再生,あるいは再会がその主な目的であったが,ある対象にはそれが生きる活力や日常生活の癒しとして体験され,想定以上の反応を得た。資源の少ない田野畑村にあって,自助・共助の土台をより効果的な形で機能させる支援システムは,それを含有したコミュニティの再構築にその活路があると考えられ,このコミュニティ再構築の試みは,その後の支援の中心的な目的とされた。こうして少なくとも危害を及ぼす存在ではないことが認知された1年目を終え,2年目以降は村からの要請もあり,メンタルヘルスに関する講演会や,仮設住宅のボランティア相談員に対するコンサルテーションなどの,より具体的で実際的な心理支援のプログラムも導入していくこととなった。以下に今年の活動流れと,現地での直接支援の概要を示す(Table.1,Table.2)。月1月2月Table. 1支援プログラム概要方2013年の活動の流れチームの活動2012年の活動の反省及び総括と,2013年の活動に関するチーム内ミーティング現地保健センターと電話での打ち合わせ(予算,来年度の活動内容等),及びチーム内ミーティング3月全村へ詩と大学付属幼稚園の園児によるバラの絵の配布4月本年度活動内容についてのミーティング(随時保健師とは電話にて打ち合わせ)5月チーム編成,予算の振り分け等6月活動内容,期間等の仮決定7月8月現地視察(戸別訪問ルートの下見),保健師らと現地ミーティング,村長へのあいさつ入村。約1週間の現地活動(バラ配布,講演会,食事会,相談員支援等)9月活動の振り返りと次年度に向けてのミーティング12月8月20日代表者(黒岩)が入村,来年度に向けた現地ミーティングTable. 2現地活動内容先発隊入村。あいさつ回り,ベースキャンプ整備,活動準備8月21日バラ配布準備,保健センター等各所打ち合わせ8月22日8月23日8月24日8月25日8月26日バラ配布(心理専門職,アシスタント,学生数名からなる6班に分かれ,配布)バラ配布(心理専門職,アシスタント,学生数名からなる6班に分かれ,配布)バラ配布。講演会,イベント準備。各所打ち合わせ。準備機材搬入。9:00~講演会。11:00~食事イベント・相談会開催。15:00~仮設住宅相談員訪問相談。片付け。10:00~仮設住宅相談員訪問相談。ベースキャンプ清掃片付け。帰京。戸別訪問プログラム(バラ作戦):全村,全戸(1300世帯)へのバラ配布を目的とした。田野畑村は大きく分けて,山側の住宅,海側の住宅,村の中心を縦断する国道に沿った中心地に近い住宅の3ブロックで構成されているため,臨床心理士,心理学科学生など5~6名からなる全6班で,それぞれの分担地区を1軒ずつバラ1輪を手渡しした。点在箇所が多く,また地理的にも訪問自体が初めてであった山側の住宅に人員を多く割き,国道沿いは全員で一斉に配布していく方法を取った。各班に長となる心理士を配置し,その管理のもと学生による配布が中心となった。また,訪問時にはバラと同時に食事会イベントの招待状と質問紙,講演会の案法