ブックタイトル明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

福田・石井・黒岩・高塚:第7回明星大学心理学会シンポジウム55災害対応におけるストレスケア~心のケアとは何をすることか~高塚雄介災害発生時のストレス人の心の働きには,内なる世界から沸き起こる衝動的なものと,外から与えられる刺激によりもたらされる反応的なものがあります。自然災害をはじめとする,予期せぬ出来事に遭遇すると,その強い刺激により人の心は大きく揺さぶられ,不安定な状態に陥ることが知られるようになりました。俗に言われる「心の傷」がもたらされるわけですが,そうした傷は目に触れるものではないので,なかなか理解されません。そのような心の傷を総称して「惨事ストレス」と呼んでいます。惨事ストレスは時間の経過とともに変化していきます。第一次段階は,惨事に直面した直後に起こりやすい昂揚した気分で,過活動になりやすくなります。自らが助かったことによる安堵感とともに,周囲の惨憺たる状況を目の当たりにして,居ても立つてもいられない思いに襲われるのでしょう。ありったけの力を振り絞ってがれきを取り除き,埋まっている人を助け出そうとしたり,炎に水をかけて鎮めようとする。生きる物としての素朴な反応がもたらす行為と考えられます。しかし,そうした状態は数日間で終わり,次の段階に進みます。第二次段階になると,急激な気分の落ち込みとともに怒りや悲しみといった気分の乱高下が繰り返されるようになります。過呼吸や多汗,頻尿といった身体症状も起こり,そのことが一層の不安を掻き立てていき,これは数か月続きます。ここまでの状態を急性期ストレス障害(ASD=Acute Stress Disorder)と呼んでいます。急性期のストレス状態は三か月から半年間続いた後,被災者の多くは次第に精神的安定を回復し,身体症状も次第に収まっていきます。しかしおよそ一割の人たちが,なかなか回復せず,さらに深刻な心身症状を訴えるようになっていきます。そうした状態をPTSD(post traumatic stress disorder)と呼び,きちんとした薬物療法と心理療法を行わないとかなり長期化することが知られるようになってきました。ASDへの対応私は,東日本大震災が起きたとき,日本精神衛生学会の代表を務めていました。日本精神衛生学会には阪神・淡路大震災の教訓から大規模災害が発生した際に緊急対応するための常設組織としてMCRT(MentalCrisis Respons Team)が設置されています。直ちにその組織を稼働させる準備を開始しました。稼働の目的は,前述したように被災者が直面している急性期ストレス障害の進行を食い止め,PTSDの発症を極力抑えるためには初期対応が重要であるとの認識があります。そこで日本臨床心理士会と日本電話相談学会に呼びかけ,共催として電話相談を実施することになりました。募集に対して約150人が相談にあたることになりました。臨床心理士だけではなく医師,保健師,社会福祉士,精神保健福祉士など職種は多岐にわたっています。その他に6つの臨床心理士養成の大学院から,50名を越える大学院生がサポーターの役割(情報収集や記録整理など)を担ってくれました。対応にあたって留意するのは,1不安のエスカレートを防ぐこと2不満の拡大を防ぐこと3孤立感を防ぐこと4自尊心が傷つくことを避けることです。大災害に見舞われた直後というのは,精神的なダメージが大きくこのような心的状態に陥りやすくなります。それを最小限に食い止めることが深刻なPTSD状態になることを防ぐことになるのです。PTSDとは何かPTSDになると3つの深刻な症状が現れます。1.フラッシュバック,恐怖の再現2.体験に重なる出来事や場面につながることを回避しようとする3.神経過敏,イライラ感,不眠状態など過覚醒状態に陥るこれらが続くと,日常生活や仕事,学業を遂行できなくなっていきます。そうならないために早期対応が求められるのです。そこではカウンセリング的な対応が必ずしも求められているわけではありません。1正確な情報提供が行われているか,2安全。安心が確保されているか,3衣食住は確保されているか,4身近に支えてくれる人間が存在するか。こうしたことがま