ブックタイトル明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

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明星大学 心理学年報 第32号

福田・石井・黒岩・高塚:第7回明星大学心理学会シンポジウム57おわりに代えて―被災支援のこれから福田憲明2011年の東日本大震災から3年が経とうとしている。シンポジウムでの報告は,2011年3月の東日本大震災発生後から2013年2月までの約2年間の支援活動に関するものであった。いずれの活動も,形態を少しずつ変化させながらも継続中であり,その後のケアの在り方を模索しつつある状況であった。それからおよそ1年が経過した本稿を執筆している現在,被災地の復興は表向き進行しているように思われる。瓦礫や破壊された建造物の撤去がすすみ,土地は更地にされ造成され,新たな場が生まれ,生活がスタートしているとも報道されている。この間に,被災した方々の生活や心の状態やいのちの在り様はどのように変わっていたのだろうか。「支援」とは,何を支えてきたのだろう。何が援けられたのだろう。人びとの心の回復はいかがだろう。復興が進み,過去の姿が消されていくことは,災害によるリアルな喪失とはまた異なる大きな苦しみとなってはいないだろうか。復興の動きという外的なものが,個々の人々の不安や焦りや不満や罪障感を新たに生んではいないだろうか。地震や津波で破壊された“物”は復旧回復されたようにも見える。しかし,多くの人々の心に残された痕跡は消えることはないだろう。時間と共に薄れ,覆われていき,それと融和していくのであろうが,気づかぬ形で心の在り様に影響しつづけるであろう。数年を経て,はじめて現れる困難や苦しみもある。とりわけ,原子力発電所の事故は,3年が経とうとしている現在も多くの人々の生活とその心理に影を落としている。放射線障害の予防と治療に関わる心理学的援助のテーマは,未知の領域も含まれ,我々に大きな課題を突き付けてくる。福島の支援は,単純な被災支援ではない。今後現れてくるであろう健康被害を含め,長きにわたり,人びとの“生きること”に助力していかなければならない。忘れることがあってはならない。災害をどのように体験し,それがどのようにその人の心を苦しめ,また,その後の回復がどのように進み,どのように片付いているのか,それは極めて個人的なものであろう。これからの心のケアとは,“3.11”をどう体験したのかが必ず問われることとなろう。被災直後の苦しみへの援助は,時を経て,被災前にもあったであろう生きていく上での悩みに影を落としている被災後の体験を,その個人的な心理的世界でどう扱っていくかという課題に変化してきているように思われる。今後,我々はどのような災害に直面するであろうか。被災者として,あるいは支援者として。災害の形態は多様であり,また経験も多様であろう。そこには,理論や教科書を超越した,圧倒的な現実があるはずである。現実に目をそむけず,時に手さぐりで,出来ることに精一杯力を尽くすことしかないのであろう。東日本大震災の支援活動は,現在いろいろな形に纏められつつあり,それが一つの援助方法として理論化されていくだろう。しかし,現実はこれらの技法や理論をも超えた姿で立ち現れることだろう。我々は怯まずに,過去の経験から学びつつも,新たな現実に向かう知恵と勇気が求められる。微力ながら専門の立場で「心のケア」に尽力しようと努めた我々心理学徒が,支援の活動を通して学んだことは,何だろうか。心理学を学び,人間のこころの在り様を学んだ学生諸君は,本報告をあらためて読むことで,個々人がそれぞれの場で何ができるかを考えて欲しい。“被災支援の心理学~心のケアのこれから”は進行中のテーマであり,今後も長く考え続けなければならないテーマであろう。